内容証明とは、内容証明郵便の略であり、書留や速達と同じ「特殊郵便」の一つです。内容証明を送ることで、作成した者(差出人)の意思表示の内容や日付を郵便局の記録に残すことができます。内容証明は、書留郵便によって郵送されますので受取人に対し、直接文書が受け渡されます。
なぜ内容証明によって借金督促を行うのか
内容証明によって借金の督促状を送る目的は、債権者(お金を貸した人)が債務者(お金を借りた人)に対し督促状を送った事実を証明することです。内容証明郵便を利用することによって上述のとおり、「差出人、受取人、文書内容、作成日」等の事項を公的に証明することができます。そのため、内容証明は意思表示の内容や送る日付が後の証拠として重要となるケース(時効等)で利用されることが多く、借金の督促においてもよく利用されます。
第166条(債権等の消滅時効) 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 ⑴ 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。 ⑵ 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。 |
内容証明によって借金督促を行う
内容証明によって借金督促を行う場合の記載内容について
内容証明によって借金の督促をする際に、記載すべき内容を説明します。内容証明は行政書士などの専門家に依頼しなくともご自身でも作成することができます。こちらでは、ご自身で作成する際に、最低限記載するべき内容を、借用書等の書面を作成し貸し付けたケースと借用書等の書面を作成せずに貸し付けたケースに分けて解説いたします。まずは、借用書等の書面を作成せずに貸し付けた金銭の返還を求める内容証明について解説します。
◆借用書等の書面が無い場合の内容証明
⑴記載すべき内容
お金の貸し借りの際に、借用書等の書面を作成していない場合には相手に対し、借用事実を認めさせる内容を記載した回答書を求める内容証明を作成することが重要です。お金の貸し借りは、口頭によっても成立しますが、書面等の証拠がなければ、本当に借用事実があったかどうかや、お金がどのような目的(贈与、消費貸借等)で相手に渡されたかの確認ができません。
そのため、相手に対しお金を貸し付けた後に相手が「お金は贈与によって取得したので返金する義務がない」と主張する可能性もあります。このような場合では、書面以外のメールやSNSのメッセージ、録音等がなければ借用を証明することが難しいでしょう。
内容証明には、借用事実を認めさせる内容以外にも、借用金を返済期日までに返済する旨を記載した回答書の作成を求めることが重要です。また借用時に利息を定めずに相手にお金を貸し付けた場合には、元金以外にもお金を貸した日の翌日から返済期日までの法定利息(令和5年現在:5パーセント)を加えた金額を請求することができます。一方、借用時に口頭やメール等で利息を定めていた場合はその利息を加えた額を請求することができます。
借用書等の書面がない場合の内容証明に記載するべき内容をまとめて記載致します。
- 金銭を借用した事実や日付
- 金銭の返済期日
- 借用金(法定利息による利息を加算することもできます。)
- 上記内容を確認するための借用書の返送
⑵テンプレート
金銭返還通知書 令和○年○月○日 通知書 被通知人 冠省 記 ○○銀行○○支店 万一、期限内にお振込みいただけない場合には、やむを得ず法的手続きに移行することを念のため申し添えます。 草々 |
◆借用書等の書面がある場合の内容証明
⑴記載すべき内容
借用書等の書面を作成した上で、お金を貸し付けた場合には、借用事実を借用書によって証明することができます。そのため、これによって作成する内容証明は借用書等の書面が無い場合と異なります。例えば、借用書等の書面がある場合のケースでは、内容証明に「借用書を作成し金銭を借用した旨、弁済期が経過している旨、遅延損害金を請求する旨」等の事項を記載します。
遅延損害金とは、 金銭債務の履行を遅滞したときに、損害を賠償するために支払われる金銭をいい、遅延損害金は貸付時に利率を定めることができます。貸付時に利率を定めなかった場合には、法定利率により遅延損害金を加算した額を請求することができます。個人間の遅延損害金の利率は利息制限法により上限が定められています。
⑵テンプレート
金銭返還通知書 令和○年○月○日 通知書 被通知人 冠省 記 ○○銀行○○支店 万一、期限内にお振込みいただけない場合には、やむを得ず法的手続きに移行することを念のため申し添えます。 草々 |
内容証明によって借金の督促を行うメリット
内容証明によって借金督促を行うメリットは色々なことが考えられますが、主なメリットとしては下記のようなことが考えられます。
◆裁判時の証拠として有効
内容証明を送ることで、後の裁判などの証拠として利用することができます。
◆プレッシャーを与えることができる
内容証明による借金督促は、裁判の前段階として利用するケースが多く、内容文書には、支払いがない場合の法的手続きへの意向の旨を記載しますので、相手にプレッシャーを与えることができます。
◆消滅時効の完成を猶予できる
民法150条により、催告があったときは、6か月は時効が完成しないことが定められており、内容証明による催告は有効な意思表示ですので消滅時効が6か月の間停止します。(消滅時効の完成猶予)消滅時効の完成猶予は、内容証明によって2度行うことは出来ませんので注意しましょう。
内容証明による借金の督促はお任せください
借用書を作成し金銭の返済が遅延しているケースや、借用書を作成せずに金銭を貸して返済を請求するケース等の内容証明の作成及び差出は行政書士にお任せください。弊所は内容証明等の民事法務を専門に扱った事務所であり、月に5件程度、年間60件程度の内容証明の作成相談とご依頼をいただいております。
内容証明は相手に支払いを強制するものではありませんが、貸したお金をほっておくと、時効により請求できる権利も消滅してしまう場合があります。先述致しましたが、内容証明は時効が完成する直前に送ることで時効の期間を6か月間停止(猶予)する効果もありますので、借金の督促等には有効な手段と言えるでしょう。
相手に貸したお金が返ってこず、どのように対処すべきかお悩みの方は、弊所にご相談ください。
内容証明によって借金督促を行う場合に確認すべき条文
◆民法
第587条(消費貸借) 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 |
簡単解説:お金等の貸し借りは、当事者が同額を返還することを約束して、相手からお金を受け取ることで効力が生じます。
第587条の2(書面でする消費貸借) 1 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。 2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。 |
簡単解説:お金の貸し借りを、書面でする場合には、実際にお金の貸し借りがなされていなくとも契約時に効力が発生します。さらに、借主は契約からお金を借りるまでの間に契約を解除することができ、これによって貸主が損害を受けた場合には、借主に対して損害賠償を請求することができます。
第589条(利息) 1 貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。 2 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。第591条(返還の時期) 1 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。 3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。 |
◆利息制限法
第1条(利息の制限) 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。 1元本の額が10万円未満の場合年2割 2元本の額が10万円以上100万円未満の場合年1割8分 3元本の額が100万円以上の場合年1割5分第4条(賠償額の予定の制限) 1 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の1,46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。 2 前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。 |
内容証明によって借金督促を行う―よくある質問
Q1.借用書を作成せずにお金を貸しましたが、後で借用書を作成してもらうことは可能でしょうか。
A.はい。可能です。相手によって借用事実を証明する文書として「借用書」、双方が署名と押印し、返済内容等を定める場合は「債務弁済承認契約書」を作成します。
Q2.借用書の代わりになる物はありますか。
A.はい。借用書の代わりになるものとして、以下の物が挙げられます。
- メール、SMS、LINE等のメッセージ
- 振込の明細書
- 電話や対面時の会話の録音
Q3.内容証明はどのような方法で行いますか。
A.内容証明は、郵便局に持参する方法、もしくはパソコンから電子内容証明によって送る方法があります。一般的に利用されるのは、郵便局に持参する方法ですが行政書士や弁護士等の専門家は業務上、内容証明を扱うことが多いので電子内容証明によって郵送するケースが多いでしょう。
Q4.上記の電子内容証明はどのように利用しますか。
A.こちらのURL(https://webyubin.jpi.post.japanpost.jp/webyubin/snt/DYFR900.do)で新規ログインをすることで利用することができます。
Q5.内容証明によって借金督促を行いましたが返信がありません。次にどのような手段が考えられますか。
A.このようなケースでは、⑴通常訴訟や⑵少額訴訟、⑶支払督促による法的手続きによる解決が必要でしょう。
⑴通常訴訟とは、公開による法廷で当事者双方が主張や立証を行い最終的な判断を裁判官による決定(判決)で決める手続きです。
⑵少額訴訟とは、請求額が60万円までの金銭の支払を求める訴訟であり、通常訴訟と異なり、1回の審理で判決が出る簡易且つ迅速な法的手続きです。
⑶支払督促とは、金銭や有価証券などの一定の数量の給付を請求する場合の簡易な手続きで、裁判所への出廷が不要で、裁判所書記官により支払督促が送達されます。支払督促では、送達後2週間を経過して相手から異議申立が無い場合には、仮執行宣言申立てを行い、強制執行の手続きに進められます。