学校におけるいじめの早期発見では、児童生徒に対するアンケート調査が重要な役割を果たします。ただし、アンケートを配布して回収するだけでは十分ではありません。回答しやすい環境を整え、回収後に内容を速やかに確認し、いじめの疑いがある情報を学校いじめ対策組織で共有し、必要に応じて個別の聴き取りや安全確保につなげるところまでが一連の対応です。本記事では、学校関係者向けに、いじめアンケートを実施するときの考え方、質問項目、記名・無記名の選択、実施方法、回収後の対応、記録保存の注意点を整理します。また、記事後半では実際に利用できるアンケート参考様式を掲載し、編集可能なWord版もダウンロードできるようにしています。
- いじめアンケートは「実施すること」ではなく早期発見につなげることが目的
- 定期的に実施し、個別面談や日常観察などと組み合わせる
- 記名式・無記名式にはそれぞれメリットと注意点がある
- 児童生徒同士で回答内容を見られない実施・回収方法を検討する
- 「今も続いている」「すぐ話したい」などの回答は速やかに確認する
- いじめの疑いがある情報を担任だけで抱え込まず、学校いじめ対策組織で共有する
- アンケート原本や聴き取り記録を適切に保存する
いじめアンケートを実施する目的
いじめアンケートの目的は、単に「いじめがありますか」と質問し、件数を集計することではありません。教職員が日常の学校生活だけでは把握できていないいじめや人間関係上の問題を早期に発見し、必要な支援や事実確認につなげることが目的です。
いじめは、教室内で目立つ暴力だけとは限りません。無視、仲間外れ、冷やかし、悪口、SNS上での嫌がらせ、物を隠す行為など、教職員が直接確認しにくい形で行われることもあります。
また、被害を受けている児童生徒本人が、自分から担任へ相談できるとは限りません。「相談したらさらにいじめられるのではないか」「先生に知られたくない」「大ごとにしたくない」といった理由から、相談をためらう場合もあります。
アンケートは「相談の入口」と考える
アンケートだけでいじめの有無を最終判断するのではなく、気になる回答を把握した後に、個別面談、教職員間の情報共有、日常の見守りなどへつなげることが重要です。
いじめアンケートといじめ防止対策推進法
いじめ防止対策推進法では、学校の設置者と学校に対し、いじめの早期発見のため、児童生徒に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずることが定められています。
この「定期的な調査」の代表的な方法が、児童生徒に対するいじめアンケートです。
ただし、法律が全国共通のアンケート用紙や質問項目を定めているわけではありません。学校の実情、児童生徒の年齢、学校いじめ防止基本方針、設置者や教育委員会の方針などを踏まえて、具体的な方法を定める必要があります。
また、学校には、いじめへの対応を実効的に行うため、複数の教職員等で構成される学校いじめ対策組織を置くことが求められています。
アンケートによっていじめが疑われる回答を把握した場合は、担任一人で処理するのではなく、学校いじめ対策組織を中心に情報を共有し、組織的な対応につなげることが重要です。
アンケートはいつ・どのくらいの頻度で実施する?
いじめ防止対策推進法は「定期的な調査」を求めていますが、「毎月1回」「年3回」など全国一律の回数を法律で定めているわけではありません。
各学校では、学校いじめ防止基本方針や年間計画の中でアンケートの実施時期を位置付け、計画的に実施することが大切です。
例えば、学期ごとに実施する方法のほか、長期休業前後、学級編成後、人間関係が変化しやすい時期などを考慮して追加実施することも考えられます。
| 実施時期の例 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 新学期から一定期間後 | 新しい学級・人間関係の中で困りごとが生じていないか |
| 学期中 | 継続的ないじめや人間関係上の問題がないか |
| 長期休業前 | SNS上のトラブルや休業中の接触について不安がないか |
| 長期休業後 | 休業期間中にトラブルが発生していないか |
| 必要が生じたとき | 特定の学級・学年で気になる兆候がある場合の追加確認 |
定例アンケートだけでいじめを把握しようとせず、個別面談、教育相談、日常の観察、保護者からの情報なども組み合わせる必要があります。
いじめアンケートに入れたい質問項目
質問は、単に「いじめられていますか」という一問だけにしない方がよいでしょう。児童生徒によっては、自分が受けている行為を「いじめ」と認識していない場合があるためです。
例えば、次のような項目を組み合わせることが考えられます。
| 質問項目 | 質問例 |
|---|---|
| 本人の被害 | 最近、学校生活で嫌なことやつらいことをされたことがありますか |
| 具体的な内容 | 悪口、無視、仲間外れ、暴力、物を隠される、SNS等 |
| 継続性 | その行為は今も続いていますか |
| 発生日時・場所 | いつごろ、どこで起きましたか |
| 周囲のいじめ | 他の人が嫌なことをされているのを見たり聞いたりしましたか |
| 相談状況 | 先生や家族などに相談しましたか |
| 学校への希望 | 学校にしてほしいことや心配なことがありますか |
| 緊急対応 | 先生に個別に話を聞いてほしいですか |
特に、「今も続いているか」「すぐに話を聞いてほしいか」という項目を設けておくと、回収後に緊急性を判断する一つの材料になります。
記名式と無記名式はどちらがよい?
いじめアンケートを作成する際によく問題になるのが、記名式にするか無記名式にするかという点です。法律上、一律にどちらかが指定されているわけではありません。
| 方式 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 記名式 | 気になる回答があった場合に本人へ速やかに確認しやすい | 名前を書くことで本音を回答しにくくなる場合がある |
| 無記名式 | 心理的な負担が比較的小さく、回答しやすい場合がある | 具体的な被害を把握しても本人を特定できず、支援につなげにくいことがある |
学校によっては、通常は無記名としながら、「先生に個別に相談したい人は名前を書いてください」とする方法なども考えられます。
大切なのは、何のためにアンケートを実施するのかを明確にし、その目的に合った方式を検討することです。
アンケート実施時に学校が注意したいこと
質問内容が適切でも、実施方法によっては児童生徒が本音を書きにくくなることがあります。
- 回答前にアンケートの目的を説明する
- 回答内容を児童生徒同士で見せ合わないようにする
- 隣の児童生徒の回答が見えにくい環境を整える
- 回答中に教職員が児童生徒の用紙をのぞき込まない
- 回答内容が他の児童生徒に見えにくい方法で回収する
- アンケート以外の相談方法も案内する
- 必要に応じて学校から確認する場合があることを説明する
アンケート用紙を児童生徒に回収させる運用は慎重に
児童生徒が回答用紙を集める方法では、他の児童生徒に回答内容を見られる可能性があります。特にいじめ被害の申告を含むアンケートでは、安心して回答・提出できる環境を検討することが重要です。
回収後の確認・対応が最も重要
いじめアンケートでは、回収した後の対応が非常に重要です。回答を集計して「いじめ○件」と記録するだけでは、早期発見・早期対応につながりません。
アンケート回収後は、例えば次の流れで確認します。
- 緊急性を確認する 「今も被害が続いている」「すぐに話を聞いてほしい」などの回答を優先して確認します。
- 学校いじめ対策組織へ共有する 担任一人だけで判断せず、組織的に情報を共有します。
- 本人から聴き取る 安心して話せる場所と方法を選び、無理に回答を迫らないよう配慮します。
- 必要な事実確認を行う 関係児童生徒や教職員からの聴き取り、記録等の確認を行います。
- 安全確保を行う 被害が続いている場合は、座席、休み時間、登下校等について必要な配慮を検討します。
- 記録を残す アンケート、聴き取り、会議、保護者への説明などの経過を記録します。
アンケートの保存・廃棄について
いじめアンケートは、実施後すぐに廃棄してよいものとは限りません。後日、重大事態に関する調査が必要となった場合、過去のアンケートや個別面談の記録が重要な資料となることがあります。
重大事態に関する調査では、定期的に実施したアンケート、個人面談の記録、いじめに関する相談記録、児童生徒への聴き取り記録などが資料となる可能性があります。
そのため、学校・設置者の文書管理規則等に従って、適切に保存してください。
保存期間は学校・設置者のルールも確認
通常のアンケートすべてについて全国一律の保存期間が定められているという意味ではありません。重大事態が疑われる場合などには、関係資料を安易に廃棄せず、学校設置者等と保存方法を確認することが重要です。
Word形式のいじめアンケート参考様式

学校関係者がそのまま編集して利用できるよう、いじめアンケートの参考様式をWord形式で作成しました。児童生徒向けの質問項目だけでなく、回収後に学校側が利用できる「確認・対応メモ」と「運用上のチェックポイント」も収録しています。
以下のWordファイルは、学校名、学年、学級、記名・無記名の方法、対象学年の発達段階、学校いじめ防止基本方針、教育委員会等の方針に合わせて編集して利用できる参考様式です。
いじめアンケート参考様式(Word)
学校関係者向けに編集可能なWordファイルを用意しています。クリックするとWordファイルをダウンロードできます。
いじめアンケート参考様式
Word版に収録している児童生徒向けアンケートの参考様式を、記事内にも掲載します。実際に利用する際は、対象となる児童生徒の年齢や学校の実情に応じて表現を調整してください。
いじめに関するアンケート(参考様式)
困っていることや、見たり聞いたりしたことがあれば教えてください。答えにくい質問は無理に書かなくても構いません。「すぐに話を聞いてほしい」にチェックがある場合は、学校ができるだけ早く話を聞けるようにします。
| 項目 | 記入欄・選択肢 |
|---|---|
| 実施日 | 年 月 日 |
| 学年・学級 | 年 組 |
| 記名方法 | □ 記名 □ 無記名 |
| 名前(記名式の場合) | |
| 相談したい先生 |
Q1. 最近、学校生活の中で、嫌なことやつらいことをされたことがありますか。
□ ある □ ない □ わからない
Q2. 「ある」と答えた人へ。どのようなことがありましたか。(複数選択可)
□ 冷やかし・悪口
□ 仲間外れ・無視
□ たたく・ける・押す
□ 物を隠す・壊す
□ お金や物を要求される
□ 嫌なことをさせられる
□ SNS・チャット等
□ その他
Q3. それは今も続いていますか。
□ 続いている □ 今はない □ わからない
Q4. いつごろ、どこで起きましたか。
(自由記述)
Q5. 誰から、どのようなことをされましたか。書ける範囲で記入してください。
(自由記述)
Q6. 自分以外の人が、嫌なことやつらいことをされているのを見たり聞いたりしたことがありますか。
□ ある □ ない □ わからない
Q7. そのことについて、先生や家族などに相談しましたか。
□ 相談した
□ まだ相談していない
□ 相談したくない・迷っている
Q8. 学校にしてほしいこと、心配なことがあれば書いてください。
(自由記述)
Q9. このアンケートについて、先生に個別に話を聞いてほしいですか。
□ すぐに話を聞いてほしい
□ 後で話したい
□ 今は希望しない
参考様式をそのまま機械的に使用しないでください
小学校低学年の場合は言葉をより平易にする、高校生の場合はSNS・グループチャット・オンライン上の嫌がらせを具体的に質問するなど、発達段階や学校の実情に合わせて調整してください。
学校側の確認・対応メモ
Word版では、児童生徒向けアンケートだけでなく、回収後に学校関係者が利用できる「学校側の確認・対応メモ」も収録しています。
アンケートで気になる回答を把握した場合に、担任個人の判断だけで完結させず、学校いじめ対策組織等で組織的に確認するための参考欄です。
| 確認項目 | 記録内容の例 |
|---|---|
| 緊急性 | 生命・身体の危険、自傷等の懸念、暴力・恐喝等の有無 |
| アンケート記載の概要 | 本人が記載した被害内容・相談希望等 |
| 本人への聴き取り | 実施日、担当者、本人の説明 |
| 関係児童生徒への確認 | 確認の要否、実施状況、継続確認 |
| 保護者への連絡 | 被害側・加害側その他への連絡状況 |
| 学校いじめ対策組織での共有 | 共有日時、検討内容 |
| 今後の対応・見守り | 安全確保、見守り、再確認の方法等 |
特に「今も続いている」「すぐに話を聞いてほしい」「暴力を受けている」などの記載がある場合には、通常の集計作業を待つのではなく、緊急性を確認したうえで対応する必要があります。
重大事態が疑われる場合の注意点
アンケートによって、長期間のいじめ、重大な身体的・精神的被害、相当期間の欠席につながる状況などが判明した場合には、通常の校内対応だけで処理せず、重大事態に該当する可能性について検討する必要があります。
重大事態の調査では、過去のアンケート、面談記録、学校いじめ対策組織の記録、関係児童生徒への聴き取りなどが調査資料となり得ます。
特に重大事態が疑われる状況になった後に、過去のアンケートを廃棄したり、回答内容を書き換えたりすることは避けなければなりません。原本を含む資料を適切に保全し、設置者と連携して対応することが重要です。
よくある質問
いじめアンケートは法律上必ず実施しなければなりませんか?
いじめ防止対策推進法第16条は、学校設置者と学校に対し、いじめの早期発見のため児童生徒に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずることを定めています。具体的な形式や実施回数等は、学校・設置者の方針等に応じて定めることになります。
年1回実施すれば十分ですか?
法律は全国一律の実施回数を定めていません。学校いじめ防止基本方針や年間計画の中で、学校の実情に応じて定期的に実施することが重要です。アンケートだけでなく、面談や日常的な観察なども組み合わせましょう。
記名式と無記名式のどちらにすればよいですか?
一律の正解はありません。記名式は個別対応につなげやすい一方、回答をためらう児童生徒がいる可能性があります。無記名式は回答しやすい場合がありますが、具体的な支援につなげにくくなることがあります。
「いじめはない」と全員が回答した場合は問題なしと判断できますか?
アンケートで回答がなかったことだけを理由に、いじめが存在しないと断定することは適切ではありません。日常観察、教育相談、面談、保護者からの情報などを含めて継続的に状況を把握することが重要です。
アンケートでいじめが書かれていた場合、担任だけで本人に確認してよいですか?
いじめが疑われる情報は、特定の教職員だけで抱え込まず、学校いじめ対策組織等で共有して組織的に対応することが重要です。本人への聴き取りについても、安全や心理的負担に配慮して方法を検討してください。
アンケートは実施後すぐに捨ててもよいですか?
学校・設置者の文書管理規則等を確認してください。過去のアンケートが後日のいじめ調査、特に重大事態調査において重要な記録となる場合があります。重大事態が疑われる場合には安易に廃棄せず、資料を保全することが重要です。
まとめ
いじめアンケートは、学校がいじめを早期に発見するための重要な手段の一つです。しかし、アンケート用紙を配布して回収すること自体が目的ではありません。
児童生徒が安心して回答できる環境を整え、回答を速やかに確認し、いじめの疑いがある情報を学校いじめ対策組織で共有したうえで、必要な聴き取り、安全確保、保護者への連絡、継続的な見守りなどにつなげることが重要です。
また、アンケートやその後の聴き取り記録は、将来いじめの経過を確認する重要な資料となる場合があります。学校・設置者の文書管理ルールに従い、適切に保存しましょう。
本記事では、学校関係者が利用できる「いじめアンケート参考様式」を本文中に掲載するとともに、編集可能なWord版も用意しています。実際に導入する際は、対象学年、学校いじめ防止基本方針、設置者・教育委員会の運用方針等に合わせて修正したうえでご利用ください。
参考資料
制度や学校での運用を確認するための公式資料です。

