退職金が支払われないときは、会社の退職金規程などで支給条件と支払期日を確認し、未払い額を整理したうえで内容証明による請求を検討します。退職した人全員に法律上当然に退職金が生じるわけではなく、請求すれば一律7日以内に支払われるとも限りません。この記事では、労働者の退職金について、必要な資料、請求文例、時効、会社が応じない場合の対応を解説します。内容証明は通知内容を記録する方法であり、支払いを保証する制度ではありません。
- 退職金を支払う根拠と、自分への適用条件を確認する。
- 本来の支払期日と、通知で求める支払期限を分ける。
- 規程・計算資料・入金記録をそろえて未払い額を示す。
まず退職金の支給条件を確認する
制度の有無と支給対象を確かめる
退職金制度を設けること自体が、すべての会社に一律に義務付けられているわけではありません。まず就業規則、退職金規程、雇用契約書、労働協約などを確認し、「どの決まりに基づいて支払いを求めるのか」を明らかにします。採用時の説明や個別の支給約束がある場合は、その資料も保存してください。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、退職手当の定めをする場合、その対象者、計算・支払方法、支払時期などを就業規則に記載する必要があります。労働基準法第89条第3号の2は、退職金の有無だけでなく、これらの条件を確認する手掛かりになります。
従業員が10人未満でも、雇用契約や個別合意などに支給の定めがあれば、その内容を確認します。就業規則の作成・届出義務の有無と、約束した退職金を支払う義務の有無は分けて考えましょう。
勤続年数や退職理由による違いを見落とさない
規程によっては、最低勤続年数、正社員・契約社員などの対象区分、自己都合・会社都合の別、休職期間の扱いで支給額が変わります。退職時点で適用される規程の版や改定日も確認し、古い資料だけで金額を決めないようにします。
「同じ会社の知人が受け取った」という情報は調査の手掛かりですが、それだけで自分も同額を請求できるとは限りません。規程が見当たらない場合は、退職金制度の有無、適用条件、計算方法を会社に書面で問い合わせます。会社が制度や約束の存在自体を否定するときは、資料をそろえて専門家に確認してください。
支払期日と「7日以内」の関係
労働基準法第23条には、退職した労働者などから請求があった場合、7日以内に賃金の支払いや金品の返還を行う規定があります。ただし、退職金について、あらかじめ就業規則などで支給期日が特定されている場合は、その期日が到来するまで支払わなくても同条の趣旨に反しないとする行政上の取扱いがあります。
例えば「退職日の翌月末日支給」と定められている場合、その期日前から「退職後7日を過ぎたので違法」と決めつける文面は適切ではありません。一方、規程上の期日を過ぎているのに、担当者から支払予定の説明もなく放置されている場合には、期日と未払いの事実を明記して請求します。
内容証明で「○年○月○日までに支払ってください」と求める日付は、今回の催告における期限です。本来の支払期日を書き換えたように読まれないよう、「支払期日は既に経過しているため」と経過を記載しましょう。相手が確認・対応できる期間や配達に要する日数を考慮し、到着前に期限が過ぎる設定を避けます。
請求前にそろえる資料と金額の整理
最初に、入社日、退職日、退職理由、退職金の根拠、支給額、支払期日、現在の入金状況を1枚のメモに整理します。会社とのやり取りは日時と担当者が分かる形で残し、口頭説明は確認メールなどで記録すると経緯を追いやすくなります。
| 確かめること | 主な資料 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 支給の根拠 | 退職金規程、就業規則、雇用契約書 | 対象者、支給要件、適用される規程の版 |
| 勤続期間・退職理由 | 入社時の書類、退職の通知、会社とのメール | 入社・退職の日付、勤続年数の計算、休職期間 |
| 退職金の額 | 支給決定通知、計算書、給与明細 | 基礎額、支給率、加算・減額の理由 |
| 支払期日・未払い | 規程、支払予定の回答、預金の入金履歴 | 既払い額、振込予定、支払期日の経過 |
会社の計算額と自分の計算額を区別する
会社から支給決定通知が届いている場合は、その額と入金額を照合します。まだ決定通知がない場合は、規程の計算式に数値を当てはめ、どの項目に未確認部分があるかを示してください。単に「相場では○万円」として請求すると、勤務先の制度との対応が分からなくなります。
例えば、控除前の支給決定額、控除の内訳、実際の振込額が別々に記載されている場合、振込額の差をすべて未払いと扱わないようにします。控除の理由が不明なら明細を求め、既に受領した金額は差し引きます。最終給与や未払い残業代も請求する場合は、退職金と項目を分けて計算してください。
減額・不支給を通知されている場合
会社から「引継ぎが足りない」「同業他社へ転職した」「損害を与えた」などの理由で減額・不支給を告げられた場合は、根拠条項、対象行為、計算過程を確認します。会社の主張だけで結論を受け入れる必要はありませんが、規程に書かれているかどうかだけで有効・無効を断定することも避けます。
退職理由や減額の適否に争いがある案件では、一般的な請求文例をそのまま使う前に弁護士へ相談しましょう。退職時に清算条項や請求権放棄を含む書類へ署名している場合も、該当書面を隠さず提示することが必要です。
退職金を請求する内容証明の文例

以下は、退職金の支給根拠と金額を確認でき、規程上の支払期日が過ぎている場合の参考文例です。未確定の金額を確定した事実として記載せず、角括弧の部分は資料に合わせて置き換えます。会社から減額・不支給の回答が出ている場合は、その事情に応じた調整が必要です。
退職金支払請求書
[作成日]
[会社所在地]
[正式な会社名]
代表取締役[氏名]様
通知人 [住所・氏名]
私は、[入社日]から[退職日]まで貴社に勤務し、[退職理由]により退職しました。
貴社の退職金規程第[条番号]条及び[支給決定通知等の資料名・日付]に基づく私の退職金の支給額は金[金額]円です。支払期日は[本来の支払期日]ですが、[確認日]現在、[未払いの状況・既払い額]であり、金[未払い額]円の支払いを確認できていません。
つきましては、上記未払い退職金を[今回求める支払期限]までに、下記の私名義の口座へお支払いください。控除その他の理由により上記金額と相違するとのご認識であれば、その根拠と計算内訳を、同日までに書面でご回答ください。
[銀行名・支店名・預金種別・口座番号・口座名義]
既にお支払い済みの場合は、支払日及び金額をご連絡ください。
金額が分からない場合の書き分け
規程や計算資料がなく金額を特定できない段階では、「退職金の支給額、計算根拠、支払予定日を、○年○月○日までに書面でお知らせください」など、まず必要な説明を求める文面にします。資料の回答期限と金銭の支払期限を混在させず、何を求めているかを明確にしましょう。
ただし、資料の開示や説明を求めるだけの文面と、退職金の支払いを催告する文面は同じではありません。時効が近い場合は、説明の返事を待ってから請求するのではなく、未確定部分を含めて直ちに弁護士へ相談してください。
差し出す前の確認
宛先は、勤務先の屋号や店舗名だけでなく、雇用契約の相手である法人名と所在地を確認します。法人代表者を宛名に併記しても、会社の退職金を代表者個人の財産から払うよう求める意味にはしません。差出人の住所や氏名、回答先、振込口座も確認します。
内容証明で証明されるのは、いつ、誰から誰に、どのような内容の文書を差し出したかなどです。記載した退職金の額や支給義務が正しいと日本郵便が認定するわけではありません。配達の事実を残すため配達証明も利用し、文書の控え、差出票、配達に関する記録を一緒に保管します。
退職金の時効と内容証明の限界
労働基準法上の退職手当の請求権は、行使できる時から5年間行わない場合に消滅時効が問題となります。通常は規程などに定める支払期日を確認します。「退職日から必ず5年」と機械的に数えず、支払期日やこれまでの支払い・合意の経緯を整理してください。
なお、同法附則第143条第3項は、退職手当以外の賃金請求権について当分の間3年間と読み替えています。退職金はこの3年間への短縮の対象ではなく、5年間です。最終給与と退職金を一緒に請求するときは、請求項目ごとの期限を確認します。
内容証明による請求が民法上の催告に当たる場合、その時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されます。ただし、5年間の期間が最初からやり直しになる制度ではなく、猶予中に再度催告しても猶予期間を延ばせません。発送しただけで十分と考えず、到達と次の対応を確認する必要があります。
送付後も支払われない場合の対応
配達後は、指定した期限の経過と入金・回答の有無を確認します。会社が分割払いを提案してきた場合は、総額、各回の金額、支払日、残額の扱いを確認し、合意内容を記録します。退職金以外の権利まで放棄する文言がないかも確かめてください。
支給額や支払期日が明確なのに未払いが続く場合は、規程、計算書、内容証明の控えなどを持参して、勤務していた事業場を管轄する労働基準監督署へ相談する方法があります。ただし、監督署への相談は、民事上の争いについて支払額を確定し、強制的に回収してもらう手続ではありません。
退職金の権利自体、退職理由、減額・不支給の有効性などが争われている場合は、弁護士への相談や労働審判・訴訟などを検討します。会社が返信しない場合も、通知を繰り返すだけで時間を費やさず、争点と資料をまとめて次の手続へ進むか判断しましょう。
当事務所へ通知書作成をご相談いただく場合も、事実関係と依頼内容を確認したうえで、行政書士として対応できる範囲をご案内します。会社との代理交渉や訴訟代理、他の資格者の業務として制限される手続を含めてお引き受けするものではありません。
よくある質問
自己都合で退職した場合も退職金を請求できますか?
勤務先の退職金規程などによります。自己都合退職でも支給される制度、一定年数以上の勤務を条件とする制度、会社都合と支給率が異なる制度があります。自分に適用される条件を確認してください。
退職金規程を持っていないと内容証明は送れませんか?
郵便制度上の問題とは別に、請求の根拠を確認する必要があります。まず規程や計算根拠の説明を会社に求め、雇用契約書、支給約束のメールなど手元の資料も整理します。金額を推測して確定額として書くことは避けましょう。
退職金の一部だけ振り込まれた場合はどうしますか?
支給決定額、控除明細、入金額を照合し、残額とその計算根拠を示して確認・請求します。一部入金の受領だけで残額についての合意があったと扱われないよう、会社の説明や付随する書類も確認します。
内容証明を送ってから労働基準監督署へ行く必要がありますか?
内容証明を送ることが監督署への相談の前提ではありません。支払期日を過ぎて困っている場合や、時効が近い場合は先に相談できます。会社との連絡状況と未払いを示す資料を持って相談してください。
まとめ
退職金の未払いを内容証明で請求するときは、支給の根拠、適用条件、計算額、本来の支払期日を資料でつなぐことが大切です。請求文には未払い額と今回求める期限を明記し、内容と配達の記録を保存します。5年の時効や会社側の反論にも注意し、支払いがない場合や権利・金額に争いがある場合は、状況に応じて労働基準監督署や弁護士への相談につなげましょう。
参考資料
制度や手続の確認に役立つ公式情報です。


